ほくろ(色素細胞母斑)除去
ほくろ(色素細胞母斑)除去
「ほくろ」について
「ほくろ」という呼び方は俗称であって医学用語ではありません。一般的には、比較的小さな黒っぽい皮膚の病変 (盛り上がっていることが多い) をこのように呼んでいます。
ホクロのほとんどは医学的には色素細胞母斑 と呼ばれるものです。<
母斑という言葉は一般にはなじみのない言葉ですが、要するに生まれつきの”あざ”のことを指します。しかし実際はホクロは生まれたときにはほとんどありませんので、あえて 後天性色素細胞母斑 と呼ぶ皮膚科医もいるくらいです。
直径が 1cm 以上の色素細胞母斑は大きすぎるのでホクロとは呼ばれず、一般には黒あざと呼ばれます。こちらはホクロと違って生まれつき存在する、本当の母斑であることがほとんどです。顕微鏡で組織を見てもホクロと黒あざは区別できないので、大きさやできる時期によって診断されています。
それではホクロとは何かというと、皮膚の中に点在する色素細胞が何らかの原因で腫瘍化してできた皮膚の良性腫瘍(できもの)と考えられています。
ようするに皮膚のできものの一種ということです。
小さなものは原則として悪性化することはありませんので、美容的な見地から切除などの治療が必要かどうかを判断します。
直径が6mmを超える大きいものや、拡大傾向のあるものは悪性化のリスクもあるとされており、切除を勧める場合もあります。
また、悪性の皮膚腫瘍にホクロと似たものがあるので、それを見分けることが必要です。
「イボ」について
イボとは、皮膚の表面にできた小さな突起物のことです。
一般的にはドーム状に盛り上がった形状の「できもの」で、大きく分けるとウイルスの感染が原因となって起こるものと、皮膚の加齢によって起こるものがあります。また、非常に稀なケースにとどまりますが、イボのほとんどは良性ですが、悪性のものが全く無いとも言い切ることはできません。
ウイルス感染で起こるイボには、ヒトパピローマウイルス感染によるウイルス性疣贅(ゆうぜい)と、ポックスウイルス感染による伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)があります。
伝染性軟属腫は、別名では水いぼと呼ばれているものです。ウイルス性疣贅は、さらに、尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)、足底疣贅(そくていゆうぜい)、青年性偏平疣贅(せいねんせいへんぺいゆうぜい)、尖圭コンジローマ、そして、ボーエン様丘疹症の5種類に分けることができます。
よく見られるイボである尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)と脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)は、どちらも良性腫瘍です。そのため、必ずしも取らなければならないものではありません。
また、いぼの中には自然に治るものもあります。
ただ、顔面や手足など、身体の目立つパーツにできてしまうことも多いため、気になる場合は、取り除く選択もよいのではないでしょうか。
病理検査
ホクロはありふれた皮膚病変ですが、治療にあたってはきちんと診断しておく必要があります。
なぜなら皮膚の悪性腫瘍(皮膚癌)の中に、ホクロにそっくりの外観を呈するものがあるからです。
ほとんどの場合は外観からだけで診断可能ですが、やはり経験を積んだ皮膚科医や形成外科医でも間違うことはあります。
皮膚癌を見逃さないために、当院ではホクロと思われるものを切除した際でも病理検査をお勧めしています。
病理検査とは切除したものを薄く切って染色し、病理の専門医が顕微鏡で診断する検査です。この検査をすれば最終的に診断を間違えることはありません。
下記には、ほくろのように見える部分が癌化している場合として、悪性黒色腫・有棘細胞癌・基底細胞癌の3つを取り上げて解説します。
また、それぞれの皮膚癌の特徴が、シミやイボなどといった他の皮膚疾患に似ていて紛らわしい場合と、その見分け方の目安についてもお伝えします。
悪性黒色腫 (あくせいこくしょくしゅ) |
皮膚癌の中でも進行が早く、転移するおそれもあるため、最も警戒しなければなりません。別名で「メラノーマ」ともいいます。皮膚の中にある色素細胞(メラノサイト)が癌化したものです。
悪性黒色腫は、ほくろと比べて大きく広がることが多く(おおむね6ミリ以上)、いびつな形(非対称)として出現し、境界線がぼやけたように見えて、黒色の中に部分的に青や茶色などが混じっているのが特徴です。日本人では、特に手のひらや足の裏、爪の下に現れることが多いです。
何年も前からあるほくろだからといって、それが全て良性であるとは限りません。 たとえば、ここ数ヶ月ほどで急に大きくなった場合には、悪性黒色腫である可能性が疑われます。その場合、良性のほくろが癌化したのではなく、最初から悪性黒色腫として発生し、ほくろのように見えていたにすぎません。 悪性黒色腫は、シミなどの別の皮膚疾患とも間違われやすいですが、シミに比べると色が濃く、表面がやや盛り上がっている点で異なります。わずか数ヶ月で進行して大きく広がる点でも、シミとは区別できます。
しかし、高齢者に多い悪性黒色腫の一種である「悪性黒子(あくせいこくし)」は進行が遅いため、ほくろやシミと特に紛らわしく、見逃されてしまうおそれがあり、注意が必要です。 |
有棘細胞癌 (ゆうきょくさいぼうがん) |
皮膚の最も表面にある細胞(表皮細胞)が、日光などの紫外線の影響で癌化したケースが多いです。
紫外線対策をしながら生活を送ることが有効な予防法ですが、普段は衣服の下にある皮膚にも有棘細胞癌が出現する場合はありえるため、油断できません。 癌細胞が表皮に留まっている状態であれば「日光角化症」または「ボーエン病」とも呼ばれます。その状態である限り、転移のおそれはありません。しかし、癌細胞が皮膚の深くまで侵入するタイプの有棘細胞癌ならば、他の組織や臓器に転移するリスクが高まります。
初期の有棘細胞癌は、ほくろの他、シミやイボに似ているようにも見えます。しかし、皮膚の表面が赤みを帯びていたり、まるでカリフラワーのように堅く盛り上がっていたり、逆にジュクジュクした柔らかい生傷のように見えたりする場合には、有棘細胞癌のおそれがありますから要注意です。 また、膿のようになった癌細胞の部分が細菌感染することによって、洗っていない足の裏と例えられるような独特の臭いを放つこともあります。 こうした臭気の点でも、有棘細胞癌はシミやイボなどと区別できます。
ボーエン病の状態では、表面的に湿疹のようにも見えますが、湿疹と違ってかゆくならないのが特徴です。 |
基底細胞癌 (きていさいぼうがん) |
この基底細胞癌も有棘細胞癌と同じく、皮膚が日光を浴び続けることが原因のひとつです。 日光に含まれる紫外線の影響を受けやすい頭部や顔面に発生することが多く、特に鼻やおでこ、まぶたなど、周囲より盛り上がっている部分にできやすいのが特徴です。そのほか、腕や足、体幹にも発生する場合がありますし、熱傷や外傷などの痕にも生じるといわれています。
皮膚の外側から見ると、青みがかった黒色をしていることが多いです。まれに色素がなく肌色のものもあります。転移はほとんど起きませんが、皮膚の深くまで進んで正常組織を破壊し続ける性質がありますし、顔の目立つ箇所にできやすいことからも、切除するのが得策です。
基底細胞癌にかかった皮膚の表面は、丸く膨らんだり、黒褐色などに変色したりすることもあり、ほくろに間違われやすいです。色素が薄いパターンであれば、良性の粉瘤(皮膚下にある角質や脂肪の塊)やイボとも見間違えやすいです。 しかし、基底細胞癌に冒された皮膚は、丸く膨らんだ部分の直径が徐々に大きくなり、その後、膨らみの中央部分が崩れてへこんでしまうのが特徴です。
その点で、ほくろや粉瘤、イボと区別できるでしょう。 さらに、腫瘍の表面に毛細血管が走っていたり、蝋やニスを塗ったように鈍くテカる光沢が見られたりする場合も、基底細胞癌が疑われます。 |
ホクロの治療
ホクロの治療には大きく分けて2種類あります。
ひとつは紡錘形に皮膚を切除し、その後ナイロン糸で縫合する切除縫合法です。比較的大きなものを治療するときによい方法です。
もうひとつはくり抜いたり焼いたりして、ホクロの組織だけを何らかの方法で消し、その後は縫合せずに軟膏をつけて治す方法です。
いずれにしても手術してすぐに目立たなくなる訳ではありません。創(=損傷の一種)が落ち着くのには最低 3ヶ月はかかります。
術直後に日焼けをすると、しみのような色素斑が生じることがあります。
この色素斑は術後 3ヶ月くらいの間、日焼けどめクリームなどで日焼けを避ければ予防できます。
■ 切除縫合法
5mm以上の比較的大きなホクロを取るときの方法です。
ホクロ除去の基本的な治療法で、確実にほくろを除去する場合に一番適しています。
この方法の長所はホクロの組織を完全に取りきれるので、再発がありません。切除したほくろを病理検査にかけることもできるので、正確な診断も可能となります。
通常、ほくろの周囲を紡錘形に切除して一直線状の創になるように縫合します。この方法の欠点として、ほくろの直径の約3倍の長さの創となることです。短い創にこだわると、創の両端にドッグイヤー変形と呼ばれるふくらみが残ることもあります。しかしホクロがある程度より大きくなるとこの方法でしか取れません。
人の皮膚には自然なシワが多くありますので、創をシワに同化するように縫合すれば目立たなくなります。
■ くり抜き法
5㎜未満の比較的小さなホクロをとるときの方法です。
トレパンという皮膚外科で使われている円形筒状のメスを使用し、丸くホクロの形に添って皮膚をくり貫く方法です。
ある程度深くまで組織を取りますので、再発はありません。
ほくろを切除した後に、創の中で縫合し、円形創をキュッと口をすぼめるように小さい穴にしてしまいます。ニキビ跡や毛穴のように治せ、一直線状の創痕になりません。また、小さな創は縫合せずに治す場合もあります。
創痕がドーム状に盛り上がったり、逆に創がへこむことがあるのが欠点です。
直径が 5mm を超えるホクロでは創がケロイド化することがあり、大きなホクロには使えない方法です。
■ 炭酸ガスレーザー
ホクロの組織をレーザーのエネルギーで飛ばしてしまいます。結果的にはくりぬき法とほとんど変わりませんが、くりぬき法より出血が少なく、創が治るまでの治療はより簡単に済みます。
最大の欠点は組織が取れないことです。そのため病理検査ができないので、良性のホクロであることをしっかり診断したうえで治療する必要があります。
くりぬき法と同様に 3mm 以上のホクロでは創痕が目立つことがありえます。
■ Qスイッチレーザー
Qスイッチレーザーは比較的新しいタイプのレーザーです。炭酸ガスレーザーが水分のある組織を非選択的に破壊するのに対して、Qスイッチレーザーは黒っぽい色素にだけ選択的に反応して、色素細胞だけを破壊します。
したがって周囲の正常組織を傷つけることがなく、創の治りが早いです。
ただしホクロでも色のついていない部分は取り残しますので、後日再発の可能性があります。1回で取れることはまれで数回の照射が必要なことも欠点です。
盛り上がっているホクロでは、色は取れても盛り上がりは取れません。小さくて平坦なホクロ以外では実用的ではありません。
■ 電気メス
高周波を利用した電気メスでホクロの組織を削り取ります。深く掘るように削ればくりぬき法と変わりませんが、浅く削ると創の治りが早く、へこんだ創も残りません。
ただし削り方が浅すぎると再発することがあります。組織を取って病理検査を行うことも可能です。
5mm から 6mm くらいまでのホクロがこの方法に適しています。
くり抜き法での処置経過
■ ①診察
患者様のホクロの状態を診察し、適切な処置を行います。
右画像の患者様のこめかみ下部にあるホクロは直径4㎜程度のホクロでしたので、 くり抜き法を行います。
■ ②処置-1
局所麻酔を行ったあと、切除するホクロの形に添って円形筒状のメス(パンチ・トレパン)で切除を行います。
■ ③処置-2
ホクロを残すことなく切除する為に、しっかりと下層のレベルを確認します。
■ ④処置-3
下層のレベルが確認できたら、そのレベルでホクロを切除します。
その後、肉眼的にホクロが残っていないかホクロ側も創底側もしっかりと再度確認します。
■ ⑤処置-4
創の中で縫合し、円形創をキュッと口をすぼめるように小さい穴にします。
■ ⑥術後4週間
術後4週間では、創は完全に上皮化しています。
前述のように、この後しっかりと遮光していただくことで、シミのような色素斑を生じることなく目立たなくなります。